エリートな彼と極上オフィス
火をつけながら、にやっとする。

そんな表情の千明さんは、なんというか、すごく男の人に見える。

当の本人が、私を見て愉快そうに笑った。



「湯田ちゃんも、そんなふうに恥ずかしがるんだな」

「やめていただいてよいですか」

「真っ赤だよ、可愛いー」



コウ先輩がいなくなったことで、千明さんはちょっとギアチェンジをしたようだ。

あのう、こういうの困ります。

顔を覆って視線を避けようとする私を、千明さんは煙草を吸いきるまで、楽しげにからかっていた。





「CSVという概念が提唱されています。慈善活動に近いCSRと異なり、企業はあくまで本業において、社会の課題を解決すべきという考えです」



あ、ここからの流れ、と袖で聞いていて、笑いが漏れた。

先輩のプレゼンの中で、私の大好きなパートだ。



「実は我が社は、この考えそのままの活動を、30年も前から実施しています。僕がこの会社を受けようと思ったのも、その活動がきっかけでした」



かろうじて“僕”レベルの言葉づかいの崩れで済み、一緒に聞いていた六川さんが、まあいいだろう、とうなずいた。

嶋さんが頼もしげに先輩を見る。



「なんだろうね、最近、一皮剥けた気がする、まあ元々能力は高いなと思ってたけど」

「男が一人前になれるのは、結局、ママと離れた時なのかもしれないですよ」



六川さんの発言を、私は不謹慎ぎりぎりの軽口と受け取ったのだけど、聞いていたメンバーたちは一様に、ぐさっときたような反応をした。

まだだ、もう大丈夫だ、と口々に申告し、最終的に六川さんとCMO以外は半人前という結果になり、みんな黙ってしまう。



「そんなに暗くならなくても」

「湯田にはわからんだろうが、男ってのは本当に、マザコンなんだ。特に大人になってから、それが本格化するんだ」

「はあ…」

「結婚すると逆に目覚めるよな、嫁のメシ食って、これじゃない! みたいな」

「わかる、家の内外の仕切りとか、うわこれ任せられないわー、母さんが懐かしいーって」



わかるー、と盛り上がる自称乳離れできていない男性たちは置いておいて、私は先輩のプレゼンに耳を澄ますことにした。

いいですね先輩、素敵な人たちに囲まれて。

みんなが先輩の成長を敏感に察知して、評価してくれています。

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