エリートな彼と極上オフィス

「なんで俺んちだよ」

「近いし」

「近いったって。だったらここらでホテル探そうぜ、もう」



一瞬、空気が凍った。

中川嬢までもが目を丸くして見上げるのに、先輩は、あ、とうろたえた声を出して、なぜか私に向かって弁解する。



「違う、ビジネスホテルのことを言いたかったんだ、そして俺も入るってつもりはなくだな」

「わかってるわよ」



遮ったのは、中川嬢のほうだった。

焦れたように先輩の手を引いて、子供みたいに揺らす。



「それでいいから、行こ」

「待てって、俺、こいつと話が」



裏通りのほうへ引っ張られていく先輩の、反対側の腕を。

私は気がついたら、つかんでいた。


正確に言うと、スーツの袖を、握りしめていた。



「…湯田?」



先輩が不思議そうに、そんな私を振り返る。

何も言えずにいると、整った顔が困惑で曇る。


中川さんと目が合った。

初めて遭遇した時と変わらないですね、私たち。

先輩を挟んで、対峙して。


おそらく彼女には、私がとっさに取った行動の理由が、わかっているだろう。

もしかしたら当人である私よりも。



「…あの」



何よ、という顔をされる。

その目つきから、言動ほど酔っていないのが感じられ、闘志が湧いた。



「歩いてすぐのところに綺麗なビジネスホテルがあります。アメニティも充実しておりフロントの対応もよく女性一人でも安心です」

「そうなの」

「終電を逃した時に泊まったことがあるので間違いないです。だからどうぞそこをお使いいただき」



頑張るぞ、千栄乃。

正念場だ。



「先輩は、置いてってください」


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