エリートな彼と極上オフィス
私が愚かな過ちを犯した翌日から、先輩は私をご飯や飲みに誘うことは、なくなった。
夜や休日に連絡が来ることも、なくなった。
仕事上はあくまで普通に接してくれているけれど、どこかこれまでにはなかった遠慮みたいなものも、感じる。
ふとした時、たとえば以前なら気軽に頭を叩いてくれていたような場面で、先輩がはっと控える姿も、よく見る。
なんであんなバカなこと言ってしまったんだろう。
なんの不満もなかったのに。
毎日先輩と仕事して、頭使って足使って、それが本当に楽しかったのに。
あのままの日々で、全然よかったのに。
私が何もかも、変えてしまった。
本当にバカだ。
「おま…、どうした、その顔」
「朝起きたあ、こんらんらってまひた…」
パンパンに膨れ上がった右頬のせいで、私の顔は完全に変形していた。
昨日の夜、思い悩みすぎると顎まで痛くなるのかと発見した気でいたら、虫歯だったらしい。
先輩の愕然とした顔を見るに、相当ひどい顔なんだろう。
「歯医者は」
「予約とれあくて、あひたに」
「今日一日、それか」
「痛みろめは飲んらんれ」
今日はプレゼンするような会議もないし、なんとかなる。
PCを開き、仕事の準備を始めた私に、先輩はしばらく何か言いたそうにしていたけれど、やがて離れたテーブルについた。
ところで今更ながら、このIMC室について説明すると、IMC室というのは通称で、正式には統合マーケティング室という。
『統合マーケティング』とは、マーケティング手法のひとつだ。
これからの時代に必須と言われているけれど、日本企業ではまだ全然取り入れられておらず、欧米や新興アジアに完全に出遅れている。