エリートな彼と極上オフィス
「ここで飲んでるってことは、今日は由美さんちにお泊まりですか、千明さん」
「怖いこと言わないで、湯田ちゃん」
「怖いって何よ」
由美が冷めた目でにらんでくる。
ほら見ろ、怖い。
「そういうお前らこそ」
「だって来週から、俺また出張でさ」
言いながら航が、広秋の隣の椅子を引く。
脱いだスーツを椅子の背にかけて、くたびれた様子で腰を下ろした。
「東北だっけ?」
「そう、また事業所巡り」
「私もこの間、ほんと見学レベルですが初めて行ってきました、やっぱり本社と全然違いますね」
由美の隣に座った湯田は、メニューを見もせずにいくつかの料理とドリンクをオーダーした。
年度始めに異動し、いわば航の後輩というポジションから自立した彼女は、少し自信をつけたのか、一人前の風格を備えつつある。
仕事での絡みも多い広秋は、その変化を頼もしく感じていた。
「軽く食ったら行こうぜ湯田、寝ちまいそうだ、俺」
「寝たらダメですよー、せっかくDVD借りてきたのに」
「映画でも観るの?」
いかにもつきあいはじめのカップルという時間の過ごし方に、驚き半分あきれ半分で訊いてみたら、湯田が首を振る。
「会社案内のビデオです、うちの」
「…工場見学とかで見せるやつ?」
「そうです、そういうのも変えてかないとってことで。まあ、私はおつきあいするだけですが」
…金曜の夜に部屋でふたりきりなら、もう少し他のことしなよ、と突っ込みたくなったが、やめておいた。
このふたりはこれでいいのだ、たぶん。
「あれ作ったの広報だよな?」
「企業広報グループな。内容、もうだいぶ古いだろ、更新してくれって話、各所からもらってるみたいだぜ」
「じゃあちょうどいいや、その時に一緒にやらせてもらえないかな、もし更新の話が具体的になったら教えてくれよ」
「了解、IMCでも動きがあるってそれとなく情報入れとくよ、そのほうが危機感出るしな」
「企業広報はのんきだよなあ、やっぱ…」
「商品広報に比べると、どうしてもな」