エリートな彼と極上オフィス
時間の流れがそもそも違うのだ。

こういう、何か変えなきゃというポイントに気づいても、今期は予算取ってないから来期やろう、という先送りを平気でするグループだ。

一方商品広報は、刻一刻と変わる市場の状況と次々開発される新商品と決算、決算、決算でいつも戦々恐々としている。

そのどちらにも属していない広秋の立場から見ると、もう少し均せないもんかね、と思うことが多々ある。


ふたりはやってきた料理をさっと食べ、一気に酒を飲み干すと、じゃあと手を振って去っていった。

今夜はだらだらと飲むつもりだった由美と広秋は、再びまったりとした空気の中、焼酎を少量ずつ、いろいろと試す。



「…なんで黙ってんの、さっきから」

「広秋くんは、自分で思ってるより千栄乃ちゃんのことが好きなのねえって思ってるの」

「やめてくれよ…」



眼鏡を外し、顔をこすった。

こういうのは、恥ずかしい。


春頃、興味半分に紹介してもらった由美とは、この半年間ですっかり飲み友達になっていた。

湯田は若干誤解している気配があるが、男と女の関係はない。

性的魅力とかそういうものよりも真っ先に、同類だ、と会った瞬間感じた。

たぶんお互いに。



「まあ千栄乃ちゃんは、あの先輩くんしか目に入ってないしね」

「わざわざ言わなくてもいい」

「千明さんと仲よくなったんですねーって嬉しそうに言ってたよ」

「そのほうが気が楽だからだろ」



湯田にしてみれば、早いところ広秋に誰かしら相手が見つかったほうがいいに決まっている。

無邪気に照れてはいるが、応えようのない相手からの好意というのは、時にとても負担であることを、経験上広秋も知っている。



「さ、そろそろ行こっか」

「まだ早いのに?」



いつもなら広秋の終電までつきあってくれる由美が、急にそんなことを言い出したので面食らった。

まだ飲みたいんだけどな、と名残惜しくテーブルの上を眺めていると、由美が美しい顔でにこりと笑う。



「うちに来なさいよ」

「はあ?」

「隣、気にならない?」


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