エリートな彼と極上オフィス
にい、と悪巧みを隠しもしない笑みに、ぽかんとしていた広秋も、ようやく理解が追いついた。
なるほど、乗った。
上着と鞄を取って立ち上がる。
「悪党だな」
「善き隣人よ」
ほんと、同類だ。
親しげに腕を絡めてくる由美の、豊満な肉体の感触を楽しみながら、広秋も自然と笑っていた。
「…これ、ここまで聞こえてるってこと、教えてあげたほうがいいんじゃないか?」
「前はこれほどじゃなかったんだけど。千栄乃ちゃん、模様替えしたのかなあ?」
どう考えても薄い壁のすぐ向こうにベッドがある感じだ。
衣擦れまではさすがに届かないものの、軋みと、時折湯田があげる焦ったような悲鳴は完全に聞こえる。
くそ、声可愛いなと舌打ちしたい気分になった。
由美の部屋に上がったのは、実は初めてだ。
明確な目的もなしに、ひとり暮らしの女の家に上がるほど軽率じゃない。
由美も特にそういう誘いをかけてきたことはなく、気楽なつきあいをしてきたつもりだったのだが。
「…変な気分になるな、これ」
「なってもいいわよ」
いかにも口先だけという感じでそう言って、由美はテレビのスイッチを入れた。
かすかな音が部屋を満たすと、隣の甘い気配はまったく感じられなくなる。
広秋はほっとして、壁際から離れて小振りのソファに移った。
「赤ワインと日本酒、どっちがいい?」
「日本酒」
由美がトレイにボトルとグラスを載せてくる。
それを足元の小さなテーブルに置くと、広秋の隣に座った。
ぴったりと寄り添ってきて、長い爪で広秋の胸元をくすぐる。
実はそのへんが弱い広秋は、身体がびくりと反応するのをあえて隠さず、いじらせておいた。
やがて由美はこらえきれなくなったように笑いだす。
広秋も笑った。