エリートな彼と極上オフィス
言ったそばから、カウンターに置いていた携帯が震える。

先輩の名前が見えて、私は酒の力もあって浮かれ、誰はばかることなく両手を上げて喜んだ。



「え、ほんとにその先輩? こんな時間に、なんの話?」

「ええと、【千明の上司が例会に出る、月曜朝イチで会議室を変更しといてくれ】」

「寸分の狂いもなく業務連絡ね」

「業務連絡で何が悪いですか!」



了解です、と返信してから、この前向きな気持ちを伝えきりたくて、敬礼しているパンダを送る。

すかさず返事が来た。



【飲んでんな?】



もうバレた。



【ちょっとだけ】

【嘘つけ】

【五合目なので、これからってとこで】

【富士登山か】



先輩は何してますか? と入力すると、直球ねえ、と由美さんがのぞきこんで呆れた。



【部屋にいる】

【そしてサッカーを見ている】

【お前、怖い】

【ビールを飲んでいる】

【怖い】



そんなのわかるに決まってる。

W杯が始まってからというもの、男性陣は出勤すればまずサッカーの話だ。

スポーツ観戦にまったく興味のない私は、日本も出るんですかと訊いて非国民扱いされた。

ふと気になって、よく考えないままに質問を投げた。



【おひとりですか?】



攻めるわねー、と由美さんが小さくつぶやいたのを聞いて、はっと我に返った時には、遅かった。

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