エリートな彼と極上オフィス
「お帰りなさい」
「ただいま、これ5分で読んで。コーヒー買ってくるわ、戻ってきたら質問聞く」
先輩は私のPCにUSBメモリを差すと、鞄だけチェアに置いて、また慌ただしく出ていった。
忙しい人なんである。
私はそれまでの作業を止めて、先輩のメモリの中身を見た。
外部セミナーのレジュメで、ところどころに先輩のコメントが書き込んである。
ビッグデータとかソーシャルグラフとか、それっぽい言葉の並んだレジュメに、先輩は辛辣な突っ込みを入れていた。
「どうだ」
「いまいちだったというのはわかりました」
「いまいちどころじゃねえよ、あんなん真に受けて、巨大なデータ解析して、ありもしない答え探し始める企業がいたら気の毒すぎるぜ」
「自業自得ですよ、鵜呑みにするような担当者しか置かない企業は、それまでってことです」
「生意気言うじゃねえか」
「先輩の受け売りです」
先輩が私のテーブルに、アイスコーヒーのプラスチックカップを置いた。
見上げると彼は彼で、自分の分を飲んでいる。
「いただきます」
「いただけ、これも市場調査だ」
先輩がそう言うのは、そのコーヒーが社内の各フロアにある自社製品を無料で飲めるフリーエリアのものではなく。
向かいのビルにある外資系のコーヒーショップで買ってきたものだからだ。
「そこまでうまいとも思わないけどな、俺は」
「カスタマーは味ではなく、あの店で買うという行為自体にステータスを感じるのです」
「まさしくそれがブランドってやつだ」
「私個人としては、豆の卸業から始まった国内企業のコーヒーのほうが、おいしいと思うのですけどね」
「人のやったもんにケチつけんなよ」