エリートな彼と極上オフィス
自分でブランディングの話を始めたんじゃないか。
一意見として発言したまでなのに、顔をしかめられるのは割に合わない。
先輩は上着をチェアの背にかけると、私のPCを覗きこむ。
「資料、進んでるか」
「あとちょいです。自分であれこれ考えても仕方ないところまで来たので、粗いですが一度見てください」
「オッケ、サルでもわかる内容になってるか?」
「そう思うのですが…」
言っているうちにチャイムが鳴った。
この部屋は革新的に新しい仕組みを導入しているものの、会社自体はれっきとした老舗メーカーだ。
昔懐かしいキンコンというチャイムと共に、フロアの面々が席を立った。
コウ先輩も腕時計を見る。
「続きは食いながらにしよう」
「あ、昨日のお釣り、机に入れておきました」
「え」
結局お忘れになっていたらしい先輩が、引き出しを開ける。
「申請してないぜ」
「他でもない先輩のためですから」
「やめろ、気持ち悪い」
本心だったのに半歩引かれて、傷ついた。
少ししおっとした私に気がついたのか、先輩は上着をつかむと軽く眉を上げて。
「これでおごってやるよ、行こ」
そう言って、封筒で私の頭を叩いた。
先輩の名前は山本航(やまもとわたる)という。
新人研修を終えて、先輩の下に配属された私は、当時まだこの部署にいた美人の人妻が「コウちゃんよ」と紹介したのを真に受けた。
よくある苗字だから、みんなそうやって呼び分けをしているのかと思ったのだ。
教えられたとおり「コウさん」と呼びかけるようになった私は、そんな呼び方をしている人は誰もいないことにやがて気づく。
しかしその頃には、今さら山本さんと呼ぶのもおかしい時期まで来ていた。
一意見として発言したまでなのに、顔をしかめられるのは割に合わない。
先輩は上着をチェアの背にかけると、私のPCを覗きこむ。
「資料、進んでるか」
「あとちょいです。自分であれこれ考えても仕方ないところまで来たので、粗いですが一度見てください」
「オッケ、サルでもわかる内容になってるか?」
「そう思うのですが…」
言っているうちにチャイムが鳴った。
この部屋は革新的に新しい仕組みを導入しているものの、会社自体はれっきとした老舗メーカーだ。
昔懐かしいキンコンというチャイムと共に、フロアの面々が席を立った。
コウ先輩も腕時計を見る。
「続きは食いながらにしよう」
「あ、昨日のお釣り、机に入れておきました」
「え」
結局お忘れになっていたらしい先輩が、引き出しを開ける。
「申請してないぜ」
「他でもない先輩のためですから」
「やめろ、気持ち悪い」
本心だったのに半歩引かれて、傷ついた。
少ししおっとした私に気がついたのか、先輩は上着をつかむと軽く眉を上げて。
「これでおごってやるよ、行こ」
そう言って、封筒で私の頭を叩いた。
先輩の名前は山本航(やまもとわたる)という。
新人研修を終えて、先輩の下に配属された私は、当時まだこの部署にいた美人の人妻が「コウちゃんよ」と紹介したのを真に受けた。
よくある苗字だから、みんなそうやって呼び分けをしているのかと思ったのだ。
教えられたとおり「コウさん」と呼びかけるようになった私は、そんな呼び方をしている人は誰もいないことにやがて気づく。
しかしその頃には、今さら山本さんと呼ぶのもおかしい時期まで来ていた。