エリートな彼と極上オフィス
「ちなみに先日の、中川さんは」
「あれは買い物つきあっただけだよ、知ってるだろ」
「中川なんて、最初からお前狙いじゃん、時間の問題だわ」
そうなの? と先輩が疑わしげに眉をひそめる。
そんな顔する資格があると思ってるんだろうか。
「誘われたらどうするつもりですか」
「わかんねーよ、そんなの前もって考えたりしない」
「断る理由がなければ、すると」
「なあこれ、素面でする話?」
「じゃあ飲むか、その代わりずっとこの話だぞ」
「俺、もしかして責められてんの? なんで今?」
先輩はようやく自分の立場に気づいたらしく、肩身狭そうにアイスウーロン茶をすすった。
なんで今かは置いておいて、なんで責められているのかは、単に自業自得だと思います。
千明さんも同じ思いらしく、腕を組んでコウ先輩にあからさまな白い目を送っている。
なんで今なのか、には合宿での出来事が関係している。
最終日の昼食は、みんなで作ることになっていた。
とはいえ主に若手の仕事で、調理場には私と先輩をはじめ、5名ほどが集まって手際よくカレーをつくっていた。
『先輩、ダメですよ、赤子泣いてもって言うでしょ』
ご飯の炊き加減を、フタを開けて確かめようとした先輩に声をかけると、彼がきょとんとする。
『それ、メシ炊く時の話なの?』
『なんの話だと思ってたんです』
おなじみの、始めちょろちょろ、中ぱっぱってやつだ。
最初は弱火で、中ほどは強火で一気に。
赤ちゃんが泣こうが、蓋だけは取るなと。
先輩は、へえーと感心したような声をあげて。
『絵描き歌か何かだと思ってた』
しん、と調理場が静まり返った。