エリートな彼と極上オフィス
開発も含めた、かなり要所の管理職が、ごそっと入れ替わる感じだ。

先輩は世間話のような雰囲気を装いながら、声を低めた。



「IMCの活動をやりにくくするためなんじゃないかって話に、信憑性が出てくるよな」

「社長の肝いりだってのは、本当なんでしょうか」

「そんなの、誰から訊いたんだ?」



あわわ、もう漏らしてしまった。

新たな情報に興味を示す先輩に、噂です、とだけ言う。



「社長って言ったら、岩瀬さんをCMOに据えた張本人だろ」

「安永専務に説得された形と聞きます、どこかで関係が狂ったってことは考えられませんか」



先輩は私のペンの頭でコツコツと前歯を叩きながら、紙ナプキンをにらんで何事か考えこんだ。

彼の頭脳が、目まぐるしく回転を始めたのが伝わってくる。



「人が入れ替わるだけでもマイナスなのにな」

「いわば最初からやり直しですもんね」



IMC室のみんながひとりひとり、すべての部門に足を運んで統合マーケティングの必要を説き。

だんだんと理解者が増えてきたと感じられてきた矢先に、そういう人が狙い撃ちで弾き出されるような人事。


やがて先輩は、吹っ切るようにひとつ息を吐くと、ペンを私の胸ポケットにさっと戻し、よし、と言った。



「とりあえず今の情報をIMCで共有しよう」

「CMOから何か言ってほしいですよねえ」

「こんな時に長期出張なんてなあ」



今岩瀬CMOは、世界中のトップクラスのマーケターが集まるシンポジウムに出席するため米国に飛んでいる。

まさか、その間を狙っての内示ってことはないだろうけど…。

その疑念は先輩にもあったらしく、難しい顔で黙る。



「今度お電話があったら、ちょっと訊いてみましょうか」



こういうのは若手が無邪気なふりして訊くか、上の立場の人が公式に見解を求めるしかない。

私なら、個人的興味を装ってもたぶんまだ許される。

そう名乗りをあげると、先輩は優しく目を細めて。



「できそうだったら、頼む」



そう言って私の背中を叩いた。



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