エリートな彼と極上オフィス
不安の源泉に触れた嶋さんに、CMOはすぐにうなずいた。



「今日時間をもらう」

「フィードバックをお待ちしています、それから新旧役員との意識すり合わせには、山本にメインで動いてもらいたいと思います」



だしぬけに名前を出されたコウ先輩は、ガタッと音がする勢いで顔を上げた。

チームメンバーも同じように驚いた様子だったものの、そんな先輩を見て、笑みを浮かべる。

室長がまた、うなずいた。



「それでいい」

「サポートに六川(ろくかわ)さん、入ってあげてください」

「承知しました」




嶋さんの一年下の六川さんが、たくましい身体から響いてくるような、頼もしい承諾の返事をし、先輩に笑いかける。



「忙しくなるぞ、そんな間抜け面してる暇もないくらい」

「いや、でも、かなり重要な役割じゃ」



みんなに笑われて、恥ずかしそうにしながらも先輩が訴えた。



「文句があるなら嶋さんを説得するんだな」

「文句なんて」

「お前は人柄がいい、敵を作りにくい振舞いを自然と心得てる。そして若い。新しい役員はお前を見くびり、すぐに見直すだろう」



六川さんの言葉に、嶋さんがかぶせる。



「苦手な相手は六川さんに任せたらいい。他のメンバーも自由に使ってかまわない。山本の仕事は、今の流れをなんとか繋ぐことだ」

「役員との話し合いには基本、湯田も連れていけ。より相手の印象に残りやすくなるし、経験にもなる、湯田、コウを頼むぞ」



はい、と答えたら、はいじゃねえよ、と先輩に怒られた。

そして全員に笑われた。

CMOが先輩のほうへ歩いていき、肩をつかんでぐいと揺らす。



「頼むぞ」



日本企業としては革新的な、マーケティング最高責任者という立場にあり、経済メディアがこぞって取り上げようとする岩瀬了(りょう)の言葉は。

かつてないほど先輩の心を震わせたに違いなく、見ているこちらにもその余波が訪れた気がした。



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