甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

気になっていたはずの綾仁くんと一緒にいたのに、なんの迷いもなくここに来たことに、今になって気づく。

「悪かったな」と課長はぶっきらぼうに言って、パソコンをシャットダウンした。私の買ってきた袋を覗いて「こんなに食えねーな」とぼやいて。

「いいえ、悪くありません。課長のことが気になって、勝手に来ちゃっただけですから。ん? いや、なんか会いたかったんですね、本当は」

そう言うとぺちっとおでこを叩かれた。
「いたっ。ひどい」

一瞬、何が起きたかわからなかったけど私の手を取ると「帰るぞ」と告げた。
「え?」
「え? じゃねーよ。こんなに食えねーから、付き合え」
「あ、はい」

誰もいなくなったオフィスに電気が消える。
なんだか心がふわふわしてる感じがする。
課長といるとそうだ。ふわふわしたり、安心感を感じたり、言いたいことが素直に言える。一緒にいるととても心地よくてそして時々、胸が熱くなり、景色が鮮やかに見えて心が明るくなって――そんな自分は好きになれる。

「好きなんです」

出てきた言葉がすとんと胸に落ちて、優しく広がった。
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