甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

私はずっと課長に惹かれ続けていた。
好きなんだ。
それだけだった。

課長は一度足を止め、私を見た。

「はっ?」
「あっ、なんでもないです」

訊き返されると、冷静さが勝ってもう一度言えなかった。

私のことを家族みたいと課長は言っていたし、おやじだし、好きなんて言っても困らせるかもしれない。
現に今、好きな人はいるのだろうか。若槻のお姉さん、それとも私の知らない誰かがいるのかもしれないし。
酔ってるから、こうして手を引いてくれる。
その優しさは感じられて、ただ繋いでた手をギュッと握り返した。

「小千谷の家と俺の家、どっちがいい?」
「え?」
「これ、食うの。他に食べるところがあれば別だけど」
「あ……課長の家がいいです」
そう告げると大通りに出て、タクシーを止めた。
なんでかわからないけど、降りるまで手はずっと繋がれたままだった。
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