甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「ていうか、私、前から思ってたんですけど、課長って、小千谷さんのこと好きですよね」と、若槻が言う。

「はっ?」
「だって課長があんな風に人の名前を呼ぶことないじゃいないですか。おやじって愛称で」
「まあ確かに課長って、小千谷さんには冷たいながらも愛があるように感じますね」
と、中村も言う。

「はっ?」
「確かに悪態吐きつつ、楽しんでるように見えなくもないかも」
と加賀くん。

「楽しんでるって、どエスっすね」と、中村が頬を染め、ふふふと笑った。
「待て待て待て」と、その盛り上がりガールズトーク(一名男だが)にストップをかける。

「ないから。絶対、ないから」
「えーっ? なんでですか?」
と、中村は食い下がらない。

「まずね勉強会だけど、私が担当になるのが久しぶりだから、何やらかすんだかって信用してないだけ」
「何言ってるんですか。だって小千谷さん、営業事務にいたのなんてたかだか一年くらいじゃないですか。そんなにブランクあるなんて思えませんけど」
と若槻。

「それにね、私を呼ぶのにおやじだよ? おやじ。どんだけ女として見てないっていうか。親父女子じゃないっていうの」

「……小千谷さん、好きなお酒とつまみはなんですか?」と加賀くんはにんまりしながら訊ねる。
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