甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

私の家の近くまで行くと言うので、駅前で待ち合わせをした。
階段の下で待っていると
「真唯子さーん」
綾仁くんは、リズミカルに駆け下りてくる。
本当に、可愛らしいな。
こんな子が私のことを好きだと思うなんて、やっぱり何かの間違いのような気がしてくる。

「わざわざ来てくれて、ありがとう」
「いいえ、それはこっちの台詞です。ここの駅、初めて降りたけど、けっこう綺麗なんですね。あ、あのお店なんですか?」と周りの景色も新鮮なようで、微笑ましくなる。

普段は控えめに見える綾仁くんだけど、ああやって、気持ちを伝えてくれたときは、熱いものを感じられた。
たぶん、私は、顕からそういう情熱めいた感情を向けられたがっていたんだと思う。
顕はどちらかというと、いつも冷静で静かに見守ってくれる、そんな人だ。

河川敷に出て、軽くウォームアップをする。
「何キロくらい走りましょうか」
「私、いつも3キロ位しか走らないんだけど。足りないよね?」
しかし、それ以上走る体力は持ち合わせていない。
「全然。じゃあ行きますか」とアスファルトを蹴った。
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