甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

綾仁くんは、ずっと並行して走るので、私のペースに合わせてくれてるみたいだ。
隣に彼がいるだけで、見慣れた家や水面を照らす光が違って見えてくる。

3キロを手前にして、「ここの辺で休みますか」と綾仁くんは誘導する。
頷いて、階段を降りた。
バテバテの私に比べて、綾仁くんは、少し息が上がってる程度で平気そうにしてる。
「綾仁くん、全然、平気そうだね。私、もうダメだよ」
水分補給をして訴える。小さいサイズのものだったので、一気に飲み終えてしまった。
「さすが若いね」と言うと「真唯子さんとそんなに変わらないですよ」
「変わるよ」
「変わらないです」
終わりのない言い合いになりそうだったので、私が笑って折れた。

ストレッチをしながら「矢嶋さんと走ったり、するんですか?」と、唐突に尋ねられ、返答に詰まった。
「え、全然。一緒に走るか訊いたら、速攻で断られたよ」
そうだ。付き合う前にちょうどこの河川敷で、そんな話をした。
走らねーよと即答だったなと、思い返して笑いそうになる。
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