甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

綾仁くんは、返す言葉がなかったと、私に言った。

それからと続ける。
顕は手にしていた袋から何か取り出し
「ほら、これやるから、さっさと諦めろ」
と無造作に手渡した。思わず受け取ってしまった綾仁くんの手にはプリンがあり、咄嗟に出た言葉は
「え……矢嶋さん、プリン食べるんですか」
「食っちゃ悪いか」
「いや、なんか、あははは」と、笑ってしまったのは、自分が思っていたこととギャップがありすぎたからで、なんだか心が温かくなってしまったからだとおかしそうに話してくれた。




「矢嶋さん、思ってた感じと違うから、びっくりして」
プリンで諦めろっていう交渉力がすごいですよね。ていうか、なんでプリンって感じですけどねと笑って首を傾げる。
「なんでかはわからないけど。たぶん、そのプリン、顕のお気に入りのお店のだと思う」
「えっ、そうなんですか。お気に入りのものやるから諦めろってことですか」
と、取り出す。でもプリンってと呟き、眺める。納得がいかないその様子も可愛らしく見えた。
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