甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「課長、小千谷さんとそんな話するんですね」
静かに言った。
「うん。この前、元彼のことで相談って訳じゃないけど、まあ話すことがあって。それで色々言われた」
「課長の恋愛指南って貴重ですよ、きっと」と茶化すように言う。
「確かに、もう聞けないかもね。でも説得力あったな。課長ってどういう恋愛してきたんだろうね」
と、言いながら昨日の彼女の姿がまた頭を過っていった。
「本当ですね。課長に好きになってもらえる人ってどういう人なんでしょうね」と若槻は優しく笑い、チョコレートケーキを半分に崩した。

お会計をする際、レジには先ほどの男の子がいた。
「良かったら、また来てくださいね」
と言うので「たぶん、また来ます」と伝える。
そんな気がしたし、また彼に会ってみたい気持ちはある。
だけど番号を聞いたりするまでは気持ちが動かなかったので、名前を尋ねた。
「水沼です。水沼綾仁(ミズヌマアヤト)」
「綾仁くん」
「はい。お名前は?」
訊かれると思わなかったので、ちょっと驚いた。
「小千谷です。小千谷真唯子です」
「真唯子さんですね。あ、そういえば真唯子さんって一人で走ってるんですか?」
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