甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

やせ我慢に火がつくってと彼は笑った。真唯子さん、面白いですねと。
「でも三十代なんてまだまだ諦める歳じゃないじゃないですか。オーナーも三十代でバツイチで恋人も今いないみたいですけど、恋愛も仕事もしたいことはするって言ってますし。
いつも生き生きして一緒にいるとこっちも明るくなるくらいで、同年代がダメとかいうわけではないけど、年上の女性って素敵だなって最近感じますよ」

心臓がドクンと跳ねた。いや、ただオーナーが素敵なだけで私ではない。

「真唯子さんも同じじゃないですか?」と屈託なく言われ返事に詰まっていると、先ほどの会話での疑問が浮かんでしまい「あれ?」と口走っていた。

「オーナーさん、恋人いないの?」
「みたいですね」
綾仁くんの言葉をそのまま受け止めれば、課長とは付き合っていないということか。なんだ。ただの友達? 課長が女友達がいるなんて意外だったけど。

「なんだ」
「どうしました?」
「へ?」
「すごくニコニコしてるから」
「え? ううん。いや、これは罪悪感からの解放というか……いや、なんでもない。なんでもないです」
しどろもどろに答えるとそれがおかしかったのか、笑った。

通りを抜けると
「あ、タクシーありましたね」
「あ、うん。送ってくれてありがとう」
「じゃあ、真唯子さん、また」
彼に見送られてタクシーに乗り込む。
落ち込んだり、ほっとしたり、今日は感情が慌ただしかったけど、行動して良かったと改めて感じた。
今日感じたこと全て、どう明日に繋がるかわからないけど。
心地よさや素敵だなと感じられる瞬間に繋げよう。繋がっている私で在ろうと思った。
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