甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

三毛猫が目の前を通りゆく。
「あ、この前の」と呟くと「小千谷は知り合いが多いな」と課長が言う。

立ち止まり、こちらを警戒するように見るが歩みは止めたまま。まっすぐ歩けばすぐ逃げてしまいそうだ。
少し近づくと路地裏にサッと逃げ込んでいった。

「ああ、今日もやっぱりダメか」
「触りたいのか」
「触りたい……ですねぇ。触って……みたかったんだろうな」

そう言いながら綾仁くんの顔が浮かんだ。
好きだったんだろうな。なんというか人として。もしかしたら、仲良くなったら、もっと違う深い深い心地のいい感情を感じられていたかもしれない。
だけど、それ以上はきっともうないんだろうな。
友達という線引きを今、一人で引いてみた。

でも、また誰かをやっぱり自然と好きになるんだ。
そのときはもっと素直な私でいたいなとか、これで良かったんだよとか慰めの言葉がツラツラと出てくるけど、こんな言葉で自分を守ってきたように感じてもう聞きたくなくなった。
なんだか無になりたい。
また空を仰いだ。
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