甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「明日の朝、天気いいといいな」
「朝? ああ、お前、まだ走ってるのか」
「そうなんですよ。続いてるんですよ。朝の浄化された空気が気持ち良くて。天気がいいと余計に。心洗われるっていうか。だから、明日は晴れてほしいなぁ」
課長にと言うより、独り言みたいに喋っていた。
「心、洗われるか」
何を言ってるんだと我に返り
「帰りましょう。方角一緒だから、タクシー一緒でいいですか?」
提案すると課長は頷いた。

タクシーに乗り込むと課長は眠いのか目をつむっていた。先に降りるのは私なので降りる前に起こせばいいか。
車窓から流れる景色を眺め見ると、はぁと溜め息が出た。私も目をつむろう。

キュッと急ブレーキがかかると課長の身体が思い切り私にぶつかった。
「すみません。自転車が急に飛び出してきて」と運転手さんが謝るものだから、「危なかったですね」と答えた。本当にすみませんでしたと言うけど責める気も起きず頷いた。

「寝てた」
「みたいですね。私、もうすぐ着くので目覚まし変わりに良かったかもしれないです。私、おぶれませんから」
「そうかもな」と座りなおそうとした課長の手が、私の手の上に重なる。
「悪い」と離れた。
「い……いいえ」
なんだろう。私、課長と手を重ねたことがあるような。何か思い出しそうで思い出せない。
こういう感じで私、課長と――。
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