夢恋・second~その瞳に囚われて~

「はい。私も予定があるので、整理したら帰ります。お疲れさまでした」

予定と聞いてピクッとなる。
誰とどこへ行くのだろう。
佐伯課長と出かけるのだろうか。
だが尋ねるわけにもいかない。

「あの、主任……。さっき、エレベーターで会った人が……」

「ん?」

再び彼女を見る。

「いっ、いいえ。なんでもありません。お疲れさまでした」

「あ、ああ。お疲れさま」

カバンを持って立ち上がる。
なにを言いかけたのか分からないが、もう俺たちには、業務以外の会話など必要ないのだ。聞き返すまでもない。

そのまま出て行こうと歩き去る。
最後にチラッと振り返ると、俺の後ろ姿を不安げな顔で見つめる目と目が合った。

だが、その視線を振り払うように俺は駐車場へと向かった。


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