夢恋・second~その瞳に囚われて~
そのとき、耳の奥にいつもこだまする甘い声が、またどこからか聞こえてきた。
『芹香…ずっと、このままこうして君を抱いていたい。離れないから。絶対に…。俺はいつだって君のそばにいるから』
私を三年間、心の奥から縛り付けてきた囁き。
どうして忘れさせてはくれないのだろうか。
誰かを愛し、愛されることで、この呪縛から解き放たれるような気がしていた。
私は佐伯さんを、寂しさから逃げ出すために利用しようとしていただけなのかも知れない。
ねえ、教えてよ。苦しい。
心の奥に問いかけても、その声が再び答えを囁くことなどなかった。
「あの、佐伯さん。実は私…」
何もかもを佐伯さんに打ち明けてしまおう。
このままじゃ、だめだ。またいつかきっと、彼を今以上に苦しめてしまう。
たとえ許してもらえなくても、自業自得だ。
誰かを失うことにはもう慣れている。
こうやって苦い夜を何度も乗り越えてきた。あの日以来、ずっと。
「佐伯さんに話したいことが…」
私が言いかけると、それを遮るように佐伯さんが話しだす。
「なにも言わないでくれ。…君の心の奥になにかがあることには気付いてるんだ。俺に全てを見せてはいないことにも。理由は聞きたくない。今聞いたら、君はいなくなる気がする。俺は君が好きだから、終われない。君を逃がしてはあげられないから」