強引社長の不器用な溺愛
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オフィスに戻ると、社長はいない。
残っていた堂上さんが言うには、食事がてら出かけたけど、飲んでるんじゃないかということ。
定時はとうに過ぎ、オフィスには止むを得ず残業のメンツが数人。
私は残った仕事をしながら、少し待ってみたけれど、社長は戻らない。
21時半。
私はパソコンを落とし、施錠を堂上さんに任せ退勤した。
社長のマンションの部屋は知っている。
堂上さんとふたりで、酔った社長を運び込んだこともある。行ってみようか。
いや、この時間ならまだ戻っていないかもしれない。
社長がひとりで行くなら……あそこかな。
駅とも社長のマンションとも反対方向に歩く。
井の頭公園の森を左手に見て三鷹方面に少し行くとある右手の雑居ビル。
私も何度か来たことのあるそこはバーだ。地下に降り、”バー・サムロ”のドアを押し開けた。
静かでオールドスタイルなバーは八束社長のお気に入りの場所だ。
あんなにうるさい人なのに、ひとりの時は静かに飲みたいんだって。
カウンターが8席、ボックスシートが2組。あとはマスターである初老の紳士・佐室さんと、そうそうたるバックバーで全部。
社長はカウンターに座っていた。
私はマスターに会釈し、社長の背に声をかけた。
「社長」
「うお、びっくりした。篠井か」
振り向いた社長が私を見てのけぞる。
たいして飲んでいないのかな。グラスにはロックアイスと下に薄く残る琥珀色の液体。