強引社長の不器用な溺愛



俺と篠井は新宿まで電車で出ると、休日の安野産業にたどり着く。
敬三さんに玄関のロックを解除してもらい特販部のフロアにあがる。


「敬三さん!」


敬三さんは俺と篠井の声にパソコンから振り向いた。
たった今までメールのやりとりをしていたようだ。


「行方さんから、朝一で連絡がきた」


敬三さんは疲れたように片手で両目を押す。


「まだ正式な契約解除の連絡はないが、月曜には来るだろうな。くそ、契約書だけ固めて取り交わしておくんだった」


契約書の取り交わしは、あちらの営業部から追加の条項がいくつか出され、作り直しを余儀なくされていた。
今にして思えば、契約を引き延ばされていたのかもしれない。


「大沢社長は胃潰瘍で、命に別状はないらしいが、検査も含めて一ヶ月は入院。ゆうべ遅く、大沢キノコ農園の幹部が緊急招集されたそうだ。それで、副社長が出張ってきた」


「副社長ひとりが騒いでどうにかできるもんじゃないでしょう」


俺が見たところ、多くの役員や社員は、あのけばけばしいバアサンを持て余しているように見えた。
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