強引社長の不器用な溺愛
「社長の娘夫妻を味方につけたんだよ。娘婿の営業部長も、義母に泣きつかれて、聞かざるを得なかったみたいだ。あとは……清塚さんってわかるか?」


俺の横で篠井が固まったのが気配でわかった。俺は頷く。


「挨拶しましたよ。開発部門の責任者でしょう」


「そう。あの人が副社長側につくって名言したそうだ」


まさか、清塚さんは完全に社長派だったはずだ。
篠井に聞いたところ、社長の後輩にあたるうえ、人柄に心酔している。


「私のせいかもしれません……!」


突然、篠井が泣きそうな声で言った。


「何かあったのか?清塚さんと」


「昨日食事に誘われました。それを……断りました。もう一緒に食事には行けないと」


俺も敬三さんも黙ってしまった。
大の大人が振られたくらいで、仕返しをするだろうか。

しかし、ゼロとも言い切れない。
清塚さんは、どこからどう見ても、研究一筋の純朴そうな男だった。

篠井、誘いを断ったのは、俺のためか?
こんなことを考えるのは、俺のうぬぼれか?

口にできない疑問を飲み込む。
どちらにしろ、今解決すべき問題はそこじゃない。
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