強引社長の不器用な溺愛
俺は顔を上げ、敬三さんに言った。


「これから清塚さんに会ってきます。あの人がこっちにつけば、状況はまたひっくり返るかもしれない」


希望的観測だった。
しかし、副社長の権勢を削ぐきっかけになるなら、やるべきだ。

敬三さんが腰を浮かせる。


「東弥、それなら俺も行く」


「いえ、篠井を連れて行こうと思います。清塚さんが寝返った理由が篠井なら、こいつの前でもそんな格好悪いことができるかって話です。存分に動揺させてきますよ」


俺は言うなり踵を返した。事は早い方がいい。
篠井が慌てたように鞄を持ち、後に続きながら言い添える。


「それなら、アナスタシアホテルです!清塚さん、今日はそこで先輩の手伝いがあるって!」


じゃあ、俺たちの決着はそこでつけるしかないな。
俺は篠井を伴って、安野産業のオフィスを後にした。





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