強引社長の不器用な溺愛







アナスタシアホテルは駅で言えば都庁前駅が近い。安野産業とは逆方向だ。歩いて行くより早そうなので、タクシーを捕まえた。

道すがら篠井がうつむいて言う。


「清塚さんは、大沢社長を大事に想っていたはずです。なんで……こんな」


「おまえのことも大事に想っちまったってことだろ?」


俺の答えに、篠井がますます苦しげに下唇を噛む。


「安心しろ。俺もおまえが大事だ」


「何が安心しろですか。意味が通じませんから、もう!」


篠井が冷たく怒る。
あれ?今カッコよく決めたつもりだったんだけど、はずしたっぽい。

ホテルのロビーに入ると、掲示で今日の研修会をチェック。
理学なんちゃら……えーと、ここだろう。中ホールでやっているらしい。

3階のホール前には案の定受付がついている。
さらっと入ろうとしたら、呼び止められた。


「恐れ入ります。関係者以外ご遠慮いただいております」


よく見ると、出入りするやつらは胸に通行証みたいなものをつけている。あれが無ければ入れないってことか。


「すみません、清塚博之さんに緊急の用件なんですが」


篠井が食い下がるけれど、受付の女性は困った顔で言うだけだ。


「発表の最中ですので、お呼び出しは出来かねます」


今日は手伝いで来ているらしい。演者でもない清塚さんがずっと会場にべったりでいるだろうか。


「篠井、俺が辺りを探す。おまえはちょっと頼まれてくれ」


俺は考えていたことを実行に移すため、篠井にささやいた。

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