強引社長の不器用な溺愛



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翌週月曜、私はなんだか早朝に出社してしまっていた。

けして、日曜も丸々悩んでいたわけじゃない。
なんとなく、この現場をもう一度眺めておこうかなと思っただけ。
現場ってオフィスですけどね。

社長のデスクにちかづき、指先をのせる。

なんのことはない、いつもの社長のデスク。
金曜か土日のどっちかに出勤した時のものが乱雑に置き去りにされている。
飲んで置きっぱなしのコーヒー缶や、出しっぱなしの資料なんか。

この通常の光景を眺めているだけなのに、なんだか頬がかーっと熱くなってくる。

キスはかれこれ10年近くぶりだった。
そしてわかった。

10年前のキスなんて、お子様のキスだったわ。
お定まり通り、唇を合わせて、探るようにちょっと舌を入れるだけ。

そんなキスしか知らない私に、社長のキスは蜂蜜みたいに甘かった。
キスの概念が完全に書き換えられた。

あんなに気持ちいいものだったなんて。知らなかった自分がいっそ恥ずかしい。

なかったことにしたい。それと同時に思う。もう一回、してみたい。

欲望と理性が混沌とする。
まいったなぁ。

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