1人ぼっちと1匹オオカミ(番外)

 あまりに淡々と語られた内容には思えなかった。

 それに、清牙にお兄さんがいたなんてことも知らなかった。清牙の両親が厳しい人だとは思ってたけど、まさかそんな風だったなんて…。

 だから、清牙は高校上がると同時に家を出たんだ。一刻も早く、逃げ出すために。

「俺は、知ってたのに、兄貴が大丈夫だって言うのを大げさに受け取って、結局兄貴を見殺しにした。最低なやつなんだよ。…だから、ほっとけなかった。蓬が昔の俺と重なって、兄貴に連れられて家出した小さかった俺とあまりにダブって見えたんだよ」

 誰も助けてくれなかったから、単なる家出だって家に戻されて、さらに激しくなった暴力を、お兄さんが全部庇ってくれた。

 苦痛に耐えるように険しい表情のままの清牙。

 あぁ、だからなんだね。

 優しいのも、よしときゃいいのに、妙な正義感で手を差し伸べちゃうのも。

 全部全部お兄さんへの罪滅ぼしだったんだ。

 そっと清牙を抱きしめれば、普段弱みを見せないはずの男が、悪いって声を押し殺して泣いた。
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