天使は唄う
「ならば、俺がウリエルに神力を譲渡すれば回復するのでは?」
そう言ったミカエルをガブリエルが押しのける。
「僕の神力でも良いだろう?」
「待て。我の神力の方が強い。」
「それを言うなら、俺が長男だ。1番強い。」
「黙っていろ。ミカエル。」
「そうだ。普段からウリエルを独り占めしているだろう。」
「していない。」
「大体、長男の癖に人間界に行き過ぎだ。」
「人間界で研究所を営んでいるガブリエルにだけは言われたくない台詞だな。」
「お前は何方の味方だ?ラファエル。」
「ミカエルの味方ではない。」
言い争いを始めた3人にウリエルは唖然とする。
「ガブリエル、ラファエル、ミカエル。やめろ。」
その言葉と共に3人は黙った。
「問題ないと言っているだろう。」
「だが、気になるのはそれだけではない。」
ミカエルはウリエルを見る。
「何かあるのか?」
ガブリエルも見る。
「我には神力が普段より弱っているくらいにしか見えないが。」
ラファエルも見る。
「器が弱っている。」
器とは“方舟”と呼ばれる天界の場所で保管される肉体のことだ。
それを使い、地上へ降りる。
「普通ならば、もう回復していて良いくらいだ。」
「知っている。」
ウリエルはミカエルを見る。
そして、2人を見た。
「——。」
何か言いかけたような口振りでウリエルは目を伏せる。
「この器は女だ。神の兵としては力が足りない。女神の役職ではなく、大天使である以上、器が傷つくことは避けられない。それでも、ウリエルという大天使である意義を放棄するつもりはない。私はウリエル。それだけだ。」
そしてはっきり言う。
「恐らく、このままでは器が壊れる。だが、簡単に諦める気も無いし還る気もない。」
真っ直ぐに3人を見る。
「唯一の我儘を許してくれ。」
「ウリエル……」
ガブリエルは困った顔をする。
「いいや。」
ミカエルが静寂を割って、否定する。
「それは我儘ではない。」
「使命だ。」
同じ事を思っていたラファエルが続きを言った。
「それもそうだな。」
ウリエルは頷く。
「では、もうじき呼ばれる頃だろう。行こう。」
その言葉を合図に其々が去る。
「ありがとう。」
ウリエルは静かに感謝した。
(こんな兄達が居るなんて、恵まれすぎだ。)
だから、諦めない。
大天使として、神に恩を返す。
それだけじゃない。
この幸福を失わないように
——守る。
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