キッチン【短編】
レタスなんかは手で千切れば良いんだし……


レタスを水で洗って手で千切っていると自分の不甲斐なさに泣きそうになってくる。


初めて彼が出来て…


初めてのお泊りをして……


初めて一緒に朝を迎えて……


たくさんの初めてを私にくれた彼の為に、朝ごはんをと張り切っていたのに……。


高嶋さんに美味しく食べて貰いたかったのに……。


ふとお皿に乗っかる先に作ったスクランブルエッグとソーセージを見つめる。


どちらもすっかり冷めていてスクランブルエッグは見るからに固まっていた。


そっか、サラダから先に準備すれば良かった?


そんな事も私は知らない。


目玉焼きすらまともに作れない。


こんなだったら高嶋さんに作って貰ってた方が……


あれ?


高嶋さんって料理するんだっけ?


なんかいつも外食ばかりだとかと言ってなかったっけ?


それに営業のエースである高嶋さんは仕事が終わるのも遅かったりと不規則だ。


遅くに帰ってきて自炊する時間とかあるのかな?


と同時に私の胸に小さなガラスの破片がチクリと刺さったような感覚がした。


なんで調味料や調理器具とか結構、揃ってるの?


さっき、フライパンを探した時もボウルや他にも鍋だとか男の人の一人暮らしにしては色々と揃えられていた。


「あっ。」


元カノ、とか?


そうだよね。


高嶋さん、モテるもん。


私が初めてじゃないよね、ここに来たの。


きっと、私の知らない誰かがここへ来るたびに調理器具も一つ一つ揃えたのかな。


このキッチンにも私じゃない誰かが立って、高嶋さんの為に料理を作っていたんだろうか。


こんなボロボロに固まったスクランブルエッグじゃなくてフワフワした美味しいスクランブルエッグを作ってあげてたのだろうか。


じわりと目頭が熱くなって鼻の奥がツーンとする。


そんなの当たり前の事なのに…。


高嶋さんの事だもん、私とは違ってこれまでにも付き合った人くらい沢山いるでしょ。


きっとお泊りとかあっても全然おかしくない事なのに。


私の隣で綺麗な女の人が手際よくフライパンを扱う姿が浮かぶ…。


胸が苦しくなる……。


さっき、高嶋さんと朝を迎えたあのベッドにもきっとーーーー





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