何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
「お前だけには嫌われたくない」

「えっ……」



予想もしていなかった言葉に目を丸める。
そんな私を見ながら拓哉さんは愛おしそうに頬を撫でる。
その手つきがあまりにも優しくて逆に怖くなる。
拓哉さんが消えてしまいそうで……凄く怖い……。



「お前に出逢うまでは“愛”というのが何か知らなかった。
それ所かそんなものに夢中になるなんてくだらないと思っていた」

「……拓哉さん……どうしたんですか……?」



いつもならこんな事を言わない。
どんな時でも冷静で、感情を表に出さないような人が……。
何でここまで苦しんでいるのだろう……。
拓哉さんを見つめれば優しく瞼を撫でられる。
まるで“今の俺を見るな”と言っているみたいに……。


「昨日……初めてお前が俺の前からいなくなるかもしれないと実感した。
お前があの男と一緒にいるのを見た時……胸が抉られて理性を保つ事もままならなかった」

「拓哉さん彼は……」

「分かっている。
お前が俺を愛してくれている事も、アイツとは何もない事も。
だがな……俺は自分に自信がないんだ」



拓哉さんは自嘲じみた笑みを零すと私の髪を撫で下ろしながら呟いた。



「お前を繋ぎとめていく自信がない。
誰だって優しい人間の方が好きだろう?
お前だっていつか俺に嫌気がさすに決まっている」


そう言った拓哉さんの声は聞いているだけで涙が出そうだった。
昨日の事で……ここまで拓哉さんが苦しんでいたなんて思ってもいなかった。
私は自分の行動の軽率さを恨むと同時に罪悪感を感じていた。
私があの時、拓哉さんから離れなければ……。
五十嵐さんについて行かなければ……拓哉さんにこんな想いをさせなくてすんだのに……。



「嫌いになんか……なりません……」

「梓沙……?
泣いているのか……?」



拓哉さんの指が私の頬に優しく触れる。
その手を私は優しく包み込んだ。
もう……こんな想いはさせない。
その一心で私は自分の唇を拓哉さんの唇へと重ねる。
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