何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
再会は危険な香り
肌寒かった季節から少し汗ばむ季節へと変わってきた6月半ばのこの頃。


私は青空の下を大股で歩いていた。
怒りを歩きにぶつける様に前へと進む。



「あの……変態親父……」



我慢できずに漏れた声を気にすることなく歩き続けた。


私の怒りは頂点へとなっていた。
今は仕事で取引先を訪問した帰りだが……。



「なにが……『キミの体に1億をつけよう……キミも婚約者だけで飽きているだろ?』よ!!
ふざけんじゃないわよ……」



私はさっきの光景を頭に浮かべる。


私が会社に行くなり、社長は厭らしい目で脚とか胸元を見たと思ったら……。
ベタベタと私の体を触ってきたのだ。


思い出すだけで腹が立つ。


たまたま向こうの秘書さんが来てくれたから助かったが……。
もしあのまま誰も来なかったら……。


そう思うと目の前が真っ暗になった。


あの人は重要な取引相手だし無下にはできない。
でも……あの人に好きにされるなんて考えたくもない。


どうしたらよいのだろうか。
頭で考えても良い案が浮かばない。



「あーもう!!」



怒りが耐えきれなくなった私は街中にも関わらず叫んでいた。


すれ違う人にチラチラと見られる。


しまった、そう思った時にはもう遅かった。
顔に熱が帯びていくのが分かる。



「デカい声。何かあったのか?」



1人で顔を紅く染めていれば後ろから誰かの声が聞こえてきた。
思わず振り向いた私の目に映ったのは……。
< 44 / 430 >

この作品をシェア

pagetop