カフェ・ブレイク
「こんにちはー。あ、いた。夏子さーん。」
「あら、竹原くん。さすが、鼻が利くわね。もう美人を嗅ぎつけて来たの。」
和田先生が笑顔で彼……竹原くん?を迎えた。

「先生も、お綺麗ですよ。エロ校長の女じゃなかったら、仲良くしてもらうんやけどなー。」

はい!?
竹原くん?
何て言った!?

和田先生が慌てて竹原くんの口を押さえようとしたけれど、竹原くんはニヤニヤ笑って私の陰に隠れた。
「もう!何で知ってんのよ!まったく、油断も隙もない!」

否定しないんだ……。
そうなんだ。

マジマジと目の前の和田先生を見た。
できる女系のキリッとした美人さん、だと思う。
アラフォーぐらいかな。
やたらギラギラした還暦過ぎた校長と、ねえ。 

ポカーンとしてる私の肩に竹原くんの手が乗った。

え?

ぐいっと引き寄せられて、耳元で竹原くんが囁いた。
「前の養護教諭が辞めたん、校長に迫られて、この怖い薬剤師さんと板挟みになったからやって。夏子さんは気ぃつけな。」

近い……。

てか、いきなり、何で、肩を抱かれてるの?
それも生徒に!

……てか、ちょっと待って!?
前任者は定年じゃなかった?

「竹原くん?聞こえてるわよ。ほら、そろそろ教室戻りなさい!」
和田先生にそう言われて、竹原くんは「はいはい」とあっさり保健室を出て行った。

後に残された私は、和田先生に何から聞けばいいのか、正直、困った。
「まあ、そういうことだから。校長に色目使われても、その気にならないでね。」
恥ずかしそうに和田先生が口火を切った。

私は一生懸命、首をたてに振り続けた。
「わかりました!……あの、前任者は定年ってきいてたんですけど……」

和田先生は、ホッとしたらしく、ほほ笑んで説明してくれた。
「外聞悪いでしょ?腰を落ち着けて働いてくれる人に来て欲しかったから、そういうことにしてあるの。」
……つまり、騙されたのか。

「あの、今の生徒は?」
「竹原くん?まだ中1なのに目立つ子なのよね。」

中1……小門さんの息子さんと同い年……。
でも、2人とも普通じゃない気がする。

「頭、良さそうですね。顔もいいし。女の子に人気あるんでしょうね。」
……あの歳で女子大生寮から朝帰りだし、スキンシップ過多だし。

すると和田先生は苦笑した。
「女の子だけじゃないわ。おばさんもおばあちゃんも、竹原くんを可愛がってるわ。雌犬や雌猫まで、ついて来るそうよ。」 

何?それ。
冗談か比喩よね?
「モテモテなんですね……」

「既に伝説になりそうな勢いよ。光源氏か、カサノヴァか、西門慶かって。」 
「……好色一代男の世之介でいいんじゃないですか。」

「あら!」

和田先生の目がキラッと光った。
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