カフェ・ブレイク
区役所からの帰り道、少し遠回りして夜の港に行ってみた。
「光くん、って名前にするんだって。頼之くんが認知するらしいよ。……めっちゃ綺麗な子やな、確かに。」

「ひかる、くん……ひかるくん……」
なっちゃんは繰り返してそうつぶやいた。

「この子のお友達になってくれるといいな。」
そう言いながら、なっちゃんはそっとお腹に触れた。

「……俺も。触っていい?」
恐る恐るそう聞くと、なっちゃんは驚いて俺を見た。
「今まで何となく遠慮があったけど……もう、俺の子って言っていい?」
重ねてそう聞くと、なっちゃんの瞳から涙があふれた。

言葉にならないらしく、なっちゃんは、何度も首をたてにふって、俺の腕をギュッとつかんだ。
「ママはすぐ泣いちゃうねえ。」
俺はそう言いながら、なっちゃんのすぐ横にしゃがんで、なっちゃんのお腹に手と頬を宛てた。
「挨拶が遅れてごめんね。俺が君のパパだからね。早く逢いたいよ。待ってるからね。」

ポコッと頬に衝撃を感じた。
……これって……胎動か?
「返事したよ、この子。」
驚いてなっちゃんにそう報告すると、なっちゃんは口元をおさえて嗚咽をこらえてるようだった。

やれやれ。

「また我慢する。泣けばいいってば。ほら、泣け。」
なっちゃんの髪をグイッと強く引っ張ってみた。

驚くなっちゃんが可愛くて、俺は強引にキスしてから、なっちゃんの赤くなった鼻を軽く噛んだ。
「……章(あきら)さん、いくつ?ほんと、駄々っ子みたい……」
さすがに涙は止まったらしく、なっちゃんは苦笑した。

「だって、うれしいやん?やっと、俺のモンや~!って、言えるようになった。」
スキップしたいぐらいテンションが上がってる。

冷静に考えたら、41歳のおっさんと31歳のおばさんがイチャイチャしてたら、不倫にしか見えないかもしれないけど。
ま、ヒトにどう思われようと気にしない。
俺は、やっと手に入れた宝物を、全力で愛するだけ。

何の脈絡もなく、俺はなっちゃんを抱き上げた。
「何で!?」
驚くなっちゃんを、お姫さま抱っこしたまま、ぐるぐる回った。
「さあ?」

なっちゃは遠心力が怖いらしく、必死で俺の首にしがみついている。
かわいくてかわいくて……俺はさらに高速回転して高笑いした。

「やめて~。恥ずかしい~~~~。」

なっちゃんがどれだけ嫌がっても、俺の笑いはいつまでも止まらなかった。

「俺のモンや~~~~!」
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