カフェ・ブレイク

この街でずっと

三ヶ月が過ぎた。

臨月に入ると、さすがになっちゃんはすごい体型になった。

……いや、愛しいよ。
でも、正直……引く……。
そんなに太ってないのに、胸も腰もお尻もどーんと迫力を増し……何となく、がに股……。

やばい。
見てはいけないものを見てしまったような……夢がさめるというか……。

「早く元のなっちゃんに戻って欲しい……」
家ではとてもそんなことを言えない分、俺は店で小門を相手にそうこぼした。
……もちろん小門にも侮蔑の言葉で怒られてしまったけれど。

何でだ?
自分の子なら、そんな風に思わないものなのか?
それとも、俺だけがおかしいのか?
ヒトとして……冷たいのか?


悶々と過ごしていると、おあつらえ向きに頼之くんがやって来た。
頼之くんは、センター試験を余裕で終えて、二次試験に備えているところ。

「いらっしゃいませ。あおいちゃんと光くんは元気ですか?」
そう挨拶するだけで、頼之くんの目尻が下がる……よっぽど可愛いらしい。

「こんにちは、マスター。見る?光。超~~~かわいくなっとーで。」
すっかりキャラが変わった頼之くんが、嬉々として携帯電話の画像を見せてくれた。
生後3ヶ月の光くんは、まるで天使のように愛らしかった。

「ひや~。綺麗な子だね~。あおいちゃんとはまた違う……無垢な感じ?」
頼之くんは鼻白んだらしい。
「別にあおいかて、綺麗やし汚れとらんわ。……まあ、ほんまの父親が天使やったからな。綺麗すぎると弊害もあるからマジで心配やわ。」

ほんまの父親……。

他にお客さんもいないことだし、俺は頼之くんに聞いてみることにした。
「あのさ、……臨月のあおいちゃんの体型見て……幻滅しなかった?」

頼之くんはキョトンとした。
そして、俺の顔をマジマジと見つめて、失笑した。
「何?マスター、そんな風に思っとるん?奥さん、かわいそ~。」

……さすがに頼之くんにまでそう言われて、俺はちょっと落ち込んだ。
「俺、ヒトデナシなのかな……。」

頼之くんは、今度はブブッと吹き出して笑った。
「マスター!おかしい!何や、それ。マジで言うとるん?……変なヒトやな、ほんま。……まあ~、期間の長いおたふく風邪やと思っとったらええやん。」

……なるほど、確かにおたふく風邪も……百年の恋も冷める顔になるよな、うん。

「じゃあさ、臨月でもその気になった?それまで俺、かなりガツガツやりたいほうだったのに、今年に入ってから、勃ちが悪いというか……歳かもしれないけど~。……バックでやってても、この、バーンとした腰とか尻がもう……牛かカバみたいに思えて、萎えてきて……」

こんな話でも、俺は真剣に悩んでいた。
でも、頼之くんは、両手で頭を抱えてカウンターに突っ伏してしまった。

「ごめん!呆れた?こんな話!……他でできなくて、つい……ごめん……」

慌ててコーヒーの準備をした。
< 268 / 282 >

この作品をシェア

pagetop