カフェ・ブレイク
何の音?……弾けて飛んでいるみたい。
怖いんですけど……。

火に近づくと、ソレは包装紙のかかった箱の中でポンポンと弾けているようだった。
……これって、ゴミじゃないのでは?

すぐそばに火バサミがあったので、それで箱を火の中から引きずり出した。
中では、まだポンポンと言っている。

箱をひっくり返して見ると、宅配の送り状も付けっぱなし。
周囲は焦げていたけれど、肝心なところは読むことができた。

送り主は、私の母。
品物は、「贈答品(丹波栗)」とあった。

これって……つまり、私の実家から季節の贈り物、なのよね。
それを姑は、開封もせずに焼き捨てようとした、ってこと?
……ひどすぎない?

私のことが気に入らないと、実家から届いたものすら受け取りたくないものなのか。
そっかぁ……。
そこまで嫌われてたのねぇ……。

不思議なことに、涙も出なかった。
でも、心の中に、決して消えない冷たい塊が生じてしまった。


やっぱり、早々にココを離れたほうがいい。
私は、焦げた箱を火傷しないように引きずって持ち帰った。

すぐに不動産屋さんに電話をして、今日見てきた物件の中から契約をお願いした。
そして夕食準備を早めに終えて、ひたすら荷造りをした。


21時過ぎに夫が帰宅した。
「何ですか?これは。」
玄関にデーンと置かれた焦げた箱に夫は怪訝そうにそう言った。

「私の母が、栄一さんのご実家にお贈りした丹波栗のようです。開封せずに、庭で箱ごと焼かれてました。」
私がそう報告すると、夫の顔色がサッと変わった。
夫の表情には驚きが見えず、ばつの悪そうな顔になった。

……つまり、なんですか?
私が知らなかっただけで、今回だけじゃない?

今までにもこういうことがあった?
そして、夫はそれを知っていた?


……どうしよう。
夫にまで不信感を抱いてしまう。
もう、ダメかもしれない……。


翌日、仕事の帰りに不動産屋さんと契約を済ませた。
部屋は空き部屋なので、今日からでも入れると言われた。
……さすがに、最低限の着替えや寝具は必要だろう。

帰宅すると、すぐに引っ越しの準備にかかった。
本当は家具も全て持って行きたい……私がお嫁に来る時に持ってきたものだ、その権利はあるだろう。
でも、さすがに夫の荷物を放り出すわけにもいかないので、ありったけのスーツケースや段ボール箱に洋服や食器、調理器具などを詰めた。

小さな車に積めるだけの荷物を詰めて、私だけの新居へと走った。
布団は積めなかった。

とりあえず今夜は毛布だけで凌ごう。
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