カフェ・ブレイク
途中で、夫から着信があった。
帰宅して、慌てて電話してきたらしい。

運転中だったので無視して、新居に入ってから電話をかけ直した。
『どこにいるんですか?みんな心配してます。帰ってきてください。』

……みんな?
私はつい鼻で笑ってしまった。

「落ち着いたら住所を連絡します。残りの荷物を送ってください。」
『本気ですか?』

……冗談でここまでするわけがないでしょう。
おめでたいヒト。

「仕事してなければ、実家に帰ってました。」
……まあ、母の婚家では長く居られないので、すぐに次の仕事を探して独立しなければいけないけれど。
今回のように代休の臨時採用でもいいけれど、時期的に今なら正規の採用試験も受けられるかもしれない。
いずれにしても今期を全うすることが立派なスキルになる。

『何が不満なのですか?』
夫は今さらそう聞いた。
驚いて開いた口がふさがらない。

「……同じ言葉をお義母さまに聞いてみてください。」
やっとそう言うと、夫は不思議そうに言った。

『いわゆる嫁と姑ですから、お互いに気に入らないことはたくさんあるでしょう。でも、母は堪忍に堪忍を重ねて我慢してくれてます。どうしてあなたはそう短絡的に行動するのですか?母の気持ちも考えていただけませんか?』

はあ!?

「我慢って何ですか?嫁の実家から届いたモノを黙って焼き捨てることですか?そんな気持ちどう考えろって言うんですか?」

……絶望感が心に広がる……夫にわかってもらえない……
夫はため息をついた。
それすら、勘に障った。

『それは夏子さんがいつもより早く帰ってきたからでしょう?むしろ休日の変更すら知らされてなかったことに母は傷ついてます。』

「そういう問題じゃないでしょう!?」
声を荒げてしまった。

……ダメだ。
どこまでいっても、平行線だ。
夫は私を愛してくれていると思ってたけれど、それは勘違いだったようだ。
いや、夫自身も勘違いしているような気がする。
本当に夫が愛してるのは、姑。
夫は私を尊重してくれているようで、常に姑サイドに立っていたのだろう。

「これ以上話しても無駄ですね。……少し、距離を置きましょう。」
私は歩み寄ることを放棄した。

『夏子さん……私は……』
「中途半端な繰り言は聞きたくありません。では、お元気で。」
夫の言葉を遮って、電話を切った。

……不思議と、淋しくも悲しくもなかった。

高揚感と、肩の荷がおろせた気分で、むしろ清々しかった。
< 81 / 282 >

この作品をシェア

pagetop