カフェ・ブレイク
思わずそいつの後頭部を見てると、振り返ったその目とばっちり見合ってしまった。
また、ニヤリと笑われた。

……何か、頭に来るなあ。
何なんだよ。
なっちゃんの元旦那として、何でこんなに思わせぶりなんだよ。
イロイロと心配になってきた。

まさか、なっちゃん、わざわざ旦那に俺との過去とか話しちゃいないだろうなあ?

……あり得る。
なっちゃんの一途さは身を以て知っている。
てか、あんなイイ子がこんなに短期間であっさり離婚なんて……理由がそれしか思い浮かばない。

俺のせいなのか?

イロイロ思い当たる事がありすぎて、俺は顔を上げられなくなってしまった。
怪しい男は飄々とした態で常連さんと歓談し、コーヒーのお代わりまで注文した。
「次、これがいいな。タレーラン。何でこれだけ高いの?」

「ナポレオン時代のフランスの外交官のタレーランをご存じですか?彼がコーヒーに関する言葉を残してるのですが、ソレをイメージしてブレンドしました。……先ほど召し上がられたレギュラーブレンドと比較すると、物足りなく感じられるほどスッキリとクリアーな味ですが、よろしいですか?」
一応そう断ると
「へえ。おもしろいね。水で口をゆすいでから味わいますよ。お願いします。」
と、どこまで本気かよくわからない調子で注文された。

仕方ない。
「お口直しに、どうぞ。」
落花生をいくつか小皿に入れて差し出した。
「ありがと。いただきます。」

……コーヒー豆を選別して調合しながら、改めて目の前の男を観察した。
品は悪くない……というか、行儀作法は悪くない。

なのに何だろう?
この異様に退廃的なムードは。
容姿がいいだけに、妙に違和感を覚える。
オスカー・ワイルドが日本人ならこんな感じだろうか。
うん。
デカダン、だ。

こいつは結婚には向かないぞ、なっちゃん。
……俺は自分のことは棚に上げて、目の前の男を品定めした。

しかし、実はそいつもまた俺のことを推し量っていた。
たぶん俺よりもあからさまに、無遠慮に。

後から入って来られた常連のお客さまが
「なんや?喧嘩か?えらい睨み合うて。ツレとは仲良ぉしぃや。」
と心配したぐらい、俺たちは互いを見ていた。

でも俺は不審に思ってたけど、彼にはそういう悪意は微塵も感じなかった。

それがまた不可解というか……。
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