One more kiss
もがけばもがくほどじわじわと、深い穴の中に落ち込んで行っているのを感じる。


努力が実り、若くしてその分野で大成したマコトさんとは、つくづく雲泥の差である事を痛感していた。


「ホント、麻耶ちゃんの唇ってキレイよねー。適度な厚みがあって」


顔を正面に向けながらも鏡を見ず、ただぼんやりと目の前の空間に視線を漂わせ、自分の世界に閉じ籠り、ウジウジグダグダと思い悩んでいた私は、マコトさんのその声でハッと我に返った。


慌てて今さらながらに鏡の中の私を確認すると、いつの間にやら優雅に華やかに彩られていた。


まるで自分じゃないみたい……。


もう何度となく、マコトさんにはヘアメイクをしてもらっているけれど、その度に抱いてしまう感想だ。


やっぱりこの人はトップレベルのプロなんだな、としみじみ思う。


もしかしたら魔法使いなのではないかとさえ。


そして今日はその感動に加え、更に胸の鼓動を高鳴らせる出来事が。


私の顔の横に、密着させるようにして自分の顔を並べ、鏡を覗き込んでいるマコトさんのしぐさに大いにドギマギさせられていた。


せっかく誉めていただいているのに、私はそれに対して何も気のきいた言葉を返せなかった。


…やっぱり、尋常じゃなく、かっこいい人だよなーと思う。


初めて会った時、はちみつ色だった髪は幾度も色を変え、今はダークブラウンに落ち着いていた。
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