One more kiss
「とにかくそんな訳なのよ。一人で抱え込んでるのがどうにもこうにも辛くてしんどくて、思わず二人に吐き出しちゃった。ゴメンね?」

「ううん。むしろ打ち明けてくれて良かった。今回のオーディションへの未練はすっぱりと断ち切れたし、この悔しさが次の仕事への活力源になってくれそうだもん」


ユミさんは肩の荷が下りたような、サヤカさんは晴れやかな表情でそう語っていたけれど、私は複雑な心境に陥ったまま、なかなか気持ちが切り替えられずにいた。


だけど二人の手前、何とか頑張って作り笑いを浮かべ、私も吹っ切れた風を装って、当たり障りのない会話を交わしながら一階まで降りる。



別れの挨拶を述べ、駅へと向かうべく、彼女達とは別方向に歩き出した途端、言い様のない脱力感が襲って来た。


それでも自分自身を叱咤しつつ足を進め、電車に乗り込み、目的地で降りた。


その駅から徒歩10分の距離にある、私の所属事務所「CatWalk」に赴く為に。


今日の結果を電話かメールで報告するよう社長から言われていて、どうせ会場から数駅の距離であったし、今後の私の動き方についても相談しておきたかったので、直接伝えに行こうと合否が出る前から決めていたのだ。


そしてユミさんからあの話を聞いてしまった今、更に社長に会いたい欲求は高まった。
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