One more kiss
5階建ての自社ビルに到着し、エントランスに入って、就業時間が過ぎている為すでに無人の受付前を通過し、その先にある自動ドアを支給されているICカードを翳して開ける。


そこを抜け、正面にあるエレベーターに乗り込み、最上階の社長室を目指した。


部屋の前までたどり着き、ノックをして待機していると、「はい」という返答の後、ほどなくしてドアが開いた。


「あら、麻耶」

「オーディションの結果報告に来ました」

「わざわざ?」


淡々と用件を述べると、社長はちょっと驚き顔で返答した。


「電話かメールで良いって言ったのに…。まぁ、せっかく来たんだから入りなさいな」


彼女の促しに従い入室し、ドアを閉めた所でいきなり本題に入る。


「ダメでした」


応接セットに向かって歩いていた社長はピタッと足を止め、スッと振り向いた。


さすが元モデルの彼女らしく、とても綺麗な足さばき、身のこなしだった。


「…そう。残念だったわね」

「ぜひとも直接言いたかったんです。それに、確かめたい事もあったし…」

「確かめたいこと?」

「社長は知っていたんじゃないかと思って」


そこで一瞬息苦しさを覚えたけれど、深呼吸して何とか自分を落ち着かせ、私は改めて言葉を発した。


「今回のオーディション、グランプリはすでに決まっているって」


かなりの間を置いた後、ふ、と短くため息を吐いてから社長は呟いた。
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