One more kiss
それは充分分かってはいるのだけれど……。


「だけどあなたは二次の段階で早々に切られてしまった。これがどういう事か、分かるわね?」


社長はそこでツカツカと私に向かって歩を進め、至近距離まで近付くと、キッパリと言い捨てた。


「それが現時点でのあなたの限界なの」


核心を突かれて、私は何も言葉を返せない。


ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。


「あなたはせっかくのチャンスを全く活かす事ができなかった。裏でどんな駆け引きがあったって、どす黒い陰謀が渦巻いていたとしたって、本物の才能を持った人なら、必ず何かしらの形で浮上するハズ。周りがその人を選ばずにはいられないの。ここはそういう世界だと私は思っている」


体を硬直させ、ただ立ち尽くす私の左肩にポン、と手を置き、社長は続けた。


「…あなたは今モデルとして過渡期を迎えていて、色々と煮詰まっているのだと思う。とにかく今日は帰ってゆっくり休みなさい。そして気持ちに余裕が出て来たら今後の事をじっくりと考えてみなさい」


それまでよりもだいぶ穏やかな声音だった。


「もし今回のようなやり口に対して不満しか出ないのなら、『汚い、狡い、不潔だ』としか思えないのなら、この世界からはさっさと身を引いた方が賢明だと思うわ」


私は相変わらず何も言い返せず、無言のまま小さく会釈し、踵を返して社長室を後にした。
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