One more kiss
「オーディション、ダメでした…」


そのタイミングで私はポツリと呟いた。


そして、それをマコトさんに伝えたいが為に、私はここに来たのだという事を今さらながらに自覚する。


ただ……。


他にも何だか、自分でも良く分からない感情が胸の奥でぐるぐると渦巻いていたりするのだけれど、現時点ではその名前は分からなかった。


「でしょうね、その様子なら」


マコトさんにはとっくにお見通しだったようで、鏡越しに私の顔をじっと見つめながら頷いた。


「覚悟はしていたんですけど…。でも、合否云々よりも、ショックな事実を耳にしてしまって…」

「何を?」

「グランプリはすでに、決まっているって…」

「…そう」


穏やかに返答した後、マコトさんは腰に手を当て、口調を変えて、私を見下ろすようにしながら発言した。


「で?大人の世界の汚い舞台裏を垣間見て、ぴーぴー泣きながら帰って来たってワケだ」


私はとても驚いた。


「同時進行で、せっかく大きく入っていた自分の殻のヒビに、せっせと接着剤を塗り込みながらね」


普段の彼らしからぬ、厳しめで居丈高で高圧的な物言いだったから。


「…それは、ちょっと、違います…」


困惑しながらも、社長には言わなかった、言えなかった思いを、必死に彼にぶつける。
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