恋色シンフォニー


8月お盆中は、本部社員も店舗に応援に入る。

私は、駅前の化粧品がよく売れる店舗へ。
新入社員の時、1年間配属されて、店長とビューティチーフには仕事を教えてもらい、だいぶお世話になった。

化粧品ブースで久々に接客する。
やっぱりたまに現場に立つのは大事だな。
初心に戻れるし、仕事のアイデアがわいてくる。

さっきからポイントメイクのプロモーション売り場を見つめている女性がいる。
しばらく悩んでいるようなので、
「いらっしゃいませ」
声をかけると、
「あ」
「あら」
お互い、びっくりした。
例の定食屋さんで会った、オケの女の子だ。三神くんとヴァイオリン教室が一緒だったという子。
そういえば名前きいてなかった。
彼女が私の名札を見ているので、
「橘綾乃といいます」
と自己紹介する。
「あ、あたし、望月雅っていいます」
ぺこりと頭を下げる、望月さん。

「こちらで働いていらっしゃるんですか?」
「いえ、今日は応援に来てるの。何かお手伝いすることがありましたら、お声をかけてくださいね」
あまり化粧っ気がないコだ。
「お試しもできますよ?」
望月さんは、もじもじしながら、言う。
「あたし、あんまりお化粧したことなくて……でも、ちゃんとお化粧したら、少しは、橘さんみたいにキレイになって、自信が持てるかな、って……」
あら。かわいらしい。

「私のことは置いておくとして。……そうですね。気分があがったり、気合いが入ったりしますよ」
最近、その効果を実感している。
メイクに精神状態をだいぶ助けられる日々。
自信は持てないけれど、鎧にはなる。

「もし、お時間があれば、試してみません? 買う買わないは気にしないでいいので」
「い、いいんですか⁉︎」
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