恋色シンフォニー
チーフに合図して、望月さんのメイクに専念することにする。

「アイシャドウ、好きなお色はあります?」
「……派手なのは苦手です……」
ふむ。
じゃあ。
「ブラウン系なら、さりげないし、お仕事の時にもぴったりですよ」
ブラウン系のパレットをチョイスする。

「基本はグラデーションです。まぶた全体は薄く、目のキワを濃く」
説明しながら色をのせていく。
人にメイクをするのには慣れが必要。
たまに新製品のサンプルで渚ちゃんにメイクしてあげて腕を維持しておいてよかった。
「紙にお絵描きをする場面を想像して下さいね。ボールペンで描いた線と、マジックで描いた線、どっちが遠くから見えますか?」
「マジックですね」
「目を大きく、強く見せるテクニックの基本です」

アイライナーは、初心者でもやりやすいペンシルタイプを。
「まつ毛の根元を埋めるように、細かく動かします」

そして、ビューラーで睫毛をあげる。
「ドライヤーなんかでビューラーを暖めてからやると、カールしやすくなりますし、持ちもよくなります。火傷しないように気をつけて下さいね」

持ち上がったまつ毛にマスカラを塗る。
しばらく瞬きを我慢して……と言おうとするそばから、瞬きしてしまった。
あ。
目の下に黒いマスカラの点々。
「すみませんっ」
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