恋色シンフォニー
拍手が続く中、ステージ上では、圭太郎と早瀬さんとコンミスが何やらもめている。
圭太郎は、もう終わりにして、はけようという合図をするのに、コンミスも早瀬さんも首を横にふる。
アンコールをやる・やらないで、もめているらしい。
たいていは事前に決めておくものだけど、圭太郎はやらないつもりだったんだろう。
とりあえずいったん下がる圭太郎と早瀬さん。
拍手は続く。
お客さんからしたら、アンコールやってもらったほうが、得した気持ちになるものね。
今はきっと、袖でもめているんだろうと思うと、おかしくなる。
しばらくして、圭太郎だけが出てきた。
軽くお辞儀をして、ヴァイオリンを構える。
わ。アンコールやってくれるんだ。
何を弾くんだろう。
調弦を確認し、
弾き始めたのは……
バッハのブーレ!
設楽さんがブルッフの後に弾いたアンコールと一緒。
隣で設楽さんが笑った気配がした。
似ているけど、違う。
設楽さんのは、朝の森の気配がしたけれど、圭太郎のは、昼間の森で湖がキラキラ光っている景色が浮かんできた。
何かを訴えかけるというよりも、風景画のようなバッハ。
もう、ほっとした。
純粋に音楽を楽しめて。