恋色シンフォニー
眼鏡をかけていない三神くんが、私を見下ろしている。
……端正な顔なんだなぁ……。
ステージは遠かったから、見えなかった。

Tシャツにテロっとした素材のズボンという、ラフな部屋着。
Tシャツからのぞく、向かって右側の鎖骨に、例のアザが見えた。

毎日、ヴァイオリンを弾いてきた人の印だ。

妙に色っぽく見えて、ドキリとする。
いやいやいや。

「どうしたの?」
「眼鏡、かけてない」
「ああ……それ程視力が悪いわけじゃないから、家ではかけないんだ。
……座り込んでないで、立ったら?」

では、ありがたく……。

あたた。

フローリングで正座なんてするもんじゃないな。
右手で壁に手をつき、バランスをとりながら立ち上がろうとすると、三神くんが苦笑しながら手を差し伸べてくれた。

少しためらう。
ヴァイオリニストの左手。
あの演奏を生み出す手。
さわっていいんだろうか。

「どうぞ?」
催促されて、おそるおそる手をとる。
うわぁ。さすがに大きい。
私の小さな手は、ぎゅっと包み込まれる。

ああ、ヴァイオリニストの指だ。

指先が、硬くなっている。
弦を押さえ続けると、その部分の皮膚が硬くなる。

左手で三神くんに引っ張られ、右手で壁に手をつき、立ち上がる。

つかまった手を離すと、ぬくもりがなくなって、妙に左手がスースーした。
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